ぼくにはこれしかなかった。
著 者:早坂大輔 著
出版社:木楽舎
ISBN13:9784863241510

ぼくにはこれしかなかった。

図書館員のおすすめ本(日本図書館協会)

岩間朝美 / 花巻市立石鳥谷図書館
週刊読書人2021年9月24日号(3408号)


 私が幼稚園のころ七夕で願ったのは「ほんやさんになりたい」だった。関西の企業にてプログラマとして多忙を極めていた私は,パソコンとだけ向き合う日々が続いたあるとき,ふと本屋になりたかったことを思い出し,岩手に帰ってきた。

 著者は,岩手県盛岡市で本屋「BOOKNERD」を営む。この店は,かつて私が通った幼稚園や書店のすぐ近くにあるのだが,当時の書店はもう無い。他県出身の著者が盛岡市に移り住み,本屋を軌道に乗せるまでを自伝的に記したのが本書である。盛岡市と言えば,同じ県内に住む私から見れば,充分に都会で文化に富んだ街というイメージがある。しかし,著者いわく,人口30万の地方都市で小さな本屋を営むのは「自殺行為」(p.56)なのだとか。それでもなお,この街に惚れ,店を開くことに躊躇がなかったという。

 読み進めると,赤裸々につづられる著者のさまざまな思考や葛藤の跡から,そこにいたるまでにたくさんの試行があったことがわかる。そして,本屋の枠を越えて唯一無二と言える店を作り上げていく。「本屋しかなかった」のではなく「これ(BOOKNERDという店)しかなかった」ことが見えてくる。

 本書では何度か「きみ」と,読者に語りかけるような描写がある。「きみにしかできない仕事をみつけることには,たぶん人生を賭けてもいいはずだ。」(p.158)こう言い切ったその後,それは生まれたばかりの自らの息子に語りかけているとわかる。しかしそれは同時に読者である私にも間違いなく語られ,流れ込んでくる言葉であった。

 かつて漠然と本屋を目指したころを経て,本に携われている今,私にしかできない仕事をしているか。本書をきっかけに自分自身を見つめ直して,本と読者をつなぐ仕事が楽しいのだと一つの答えが出た。それを,もっと磨いていきたいと気合いを入れ直している。