本当の夜をさがして 都市の明かりは私たちから何を奪ったのか
著 者:ポール・ボガード 著 上原直子 訳
出版社:白揚社
ISBN13:978-4-8269-9058-5

本当の夜をさがして 都市の明かりは私たちから何を奪ったのか

図書館員のおすすめ本(日本図書館協会)

髙橋将人 / 南相馬市立中央図書館
週刊読書人2021年9月24日号(3408号)


 私たちは生活に光(明かり)を求め続ける。「節電」という言葉が災害後の社会に飛び交った記憶は徐々に薄れ,また今日もドアの脇のスイッチに手を伸ばす。

 「暗さ」を称賛した日本の随筆に,谷崎潤一郎『陰翳礼讃』があることはご存知の通りである。ご紹介する本書も,「暗さ」を評価する立場から人々が現在失いかけている大切なものを示そうとする。

 目次を開けば,章立てが「9」から始まって「1」に向かっていくことにまず驚く。読み進めていくと,数字が減っていくにつれて,まるで海の底に降りていくような,はたまた,遊んでいた友達が夕方一人また一人と帰っていくような,そんな感覚に襲われる(「夜が更けていくような」の例示は本書の書評としてあまりに陳腐と思われた)。

 天文学的な視点を切り口として始まる本書であるが,文学的な視点,歴史的な視点,医学,社会,文化,思想,教育…とさまざまな角度から「夜」の要素をひもといていく。もし図書館に「夜」という分類の棚があるとしたら,本書を核にして参考文献を集めるだけでずいぶん体系的な棚ができてしまうのではないか…とまで思わせられる。

 中でも光と闇のメタファーを扱った章は秀逸で,宗教的な役割を持つ人物との対話から人の「恐れ」に焦点を当て,論を深めていくが,章の最後にはきちんと椅子に座らせてもらえる。

 巻末の原註ひとつひとつの,まるでコラムのような読み味も楽しい。

 ある日,夜空を見上げて何かを思い,普段の生活ではなかなか縁のない言葉を選びたくなってしまうような,そんな離れた感覚に,本書読後も包まれた。