眉山
著 者:さだまさし
出版社:幻冬舎
ISBN13:978-4-344-40941-5

眉山

書評キャンパス―大学生がススメる本―

佐藤朱莉 / 明治大学商学部商学科4年
週刊読書人2021年10月8日号


 この本は、徳島の眉山を舞台にした物語である。そして、母と娘の物語でもあり、一人の女性の生き方を描いた物語でもある。

 咲子は、母・龍子の闘病生活の中で、母の人生について深く知っていく。以前、龍子は徳島一のスナックを切り盛りしていた。正義感が強く情に脆く、多くの人に愛されていた。病になってからも変わらず一本芯が通っており、人の道理として間違っていることには、ガツンと言い放つシーンは非常にかっこいい。  たとえば、こんなシーンがある。

「手前、辛い思いをしたことがないのか! 男が泣くにはそれだけの理由があるんだ。ちょいと鼻歌が売れてるくらいでのぼせ上がるんじゃないよ。第一、手前が偉そうにしていられるのも聞いてくださる買ってくださるお客あってのものじゃないか。人の痛みが分からないような根性の手前の歌なんざどうせ偽物に決まってらぁ」

 これは、龍子が有名な歌手に啖呵を切るシーンだ。後に、この歌手も龍子の厳しい言葉が身に染みて改心し、熱心な龍子のファンになったのだ。

 そんな母は、娘に黙って「献体」(死後、自分の死体を医師の卵である人たちが解剖するために提供すること)を申し込んでいた。娘は、なぜ母が献体を申し込んでいたか、その秘密に迫っていく。筆者は、最後に母の想いを知ったとき目頭に熱いものがこみ上げ、電車の中であるにも関わらず、思わず涙をこぼしていた。

 また、この本の魅力は、何といっても阿波踊りのシーンである。著者は、有名な歌手であるが、著者にゆかりのある土地、徳島の阿波踊りへの熱量が、挿入される歌や踊りの描写を含め、文章の細部から伝わってくる。著者もインタビューで「クライマックスが阿波踊り」という前提で、この本を書き始めたと答えていた。

 私は常に、良い女になりたいと考えている。私の考える良い女の定義は、「自分で自分の価値を認め、周りを笑顔にできる人」だ。私がこの本を手に取ったとき、通称「神田のお龍」と呼ばれる龍子こそ、本当の意味で良い女だと感じた。龍子は、世間では認められない恋愛をして咲子を生んだ。しかし、本当に好きな人の子供を育て、自分の人生に誇りをもって生きてきた。また、周りを笑顔にできるという点では、龍子は一人ひとりに平等に向き合い、相手がどんなに有名な歌手であろうと医者であろうと若者であろうと、人として間違っていることは遠慮せずに言う。言われた相手は、初めは怒ったりしても、結局その言葉が身に染みて、その人自身が良い方向に変わっていく。

 私は、人にあまり強く物を言えないことが悩みだった。それは嫌われたくないという、自分を守っているだけの態度であり、真の意味で相手のためを思っているわけではないと感じた。

 龍子のように強く生きるには、相当なパワーがいる。彼女がここまで頑張れた理由は、娘・咲子の存在にあったのではないか。この物語に、「誰かのために」という想いが、その人自身を強くすることを再確認することができた。阿波踊りの熱量と母の生き方が重なり合い、胸を打つ小説である。

★さとう・あかり=明治大学商学部商学科4年。趣味は、ドラマ・アニメ鑑賞、サイクリング。最近は、スラムダンクにはまっています。現在はそろそろ卒論に手をつけようと焦っています…。