女性受刑者とわが子をつなぐ絵本の読みあい
著 者:村中李衣(編著)・中島学(著)
出版社:かもがわ出版
ISBN13:978-4-7803-1162-4

痛いほど切実な物語への欲求

受刑者たちと絵本の読みを深めていく実践例

小曽川真貴 / 認定司書
週刊読書人2021年10月8日号


「子どもの読書活動の推進に関する法律」というものがある。基本理念を述べる第二条には「(前略)読書活動は、子どもが、言葉を学び、感性を磨き、表現力を高め、創造力を豊かなものにし、人生をより深く生きる力を身に付けていく上で欠くことのできないものである(後略)」と書かれている。

 本を読むということは、実際にどのような影響があるのだろうか。私を含め、漠然と「読書はいいものだ」とか「本は心の栄養になる」といったイメージを抱いている方は多いように思う。あるいは本に大きな影響を受けたことを、自分のごく個人的な体験のひとつとして大事にしているかもしれない。もしくは「知識は役に立つ」「本は情報がまとまっていてコスパがいい」という実利的な面を重視している場合もあるだろう。けれど、読書の影響を一般化し、かつ具体的に言語化するのはなかなか難しい。

 本書は、刑務所(正確には社会復帰促進センター)での矯正プログラムと、その実践をまとめたものである。著者は児童文学作家であり、読書療法の研究者でもある。本書に掲載されているプログラムは、女性受刑者が絵本を読む音声を録音し、絵本と一緒にわが子に送るというのがゴールであり、そこに向かって複数の受刑者たちが全六回に渡って絵本を読みあい、感想を述べあいながら絵本の読みを深めていく、というものである。なお、一般に絵本の朗読は「読み聞かせ」と呼ばれることが多いが(この語が一方的な呼称であるという批判もある)、ここでは受刑者たちが読み手、聞き手となって交流することから、書名にも「読みあい」と書かれている。

 本文は、矯正プログラムの紹介、実践事例、本プログラムを作る際に参考にしたという海外のプログラム紹介、刑務所で行うことの意義と今後の課題、そして最後にコロナ禍中での二〇二〇年の実践記録という五章で構成されており、理論と実践、国内と海外の両面から、プログラムの全体像を理解することができる。また、巻末には子どもの年齢(乳児期、幼児期、学童期以上)にあわせて「さまざまな理由でいっしょに暮らすことができない家族のことを想って読みあえる絵本」が三〇冊ずつ掲載されている。その選書基準は、多様な家庭があることを踏まえ、配偶者の役割などに配慮したものとなっており、いわゆる「読み聞かせ」のブックリストとしても非常に有用ではないかと感じた。

 この活動自体ももちろん素晴らしいことだが、特に実践事例、実践記録を通じて胸に迫ってくるのは、人が本を必要とする切実さだ。朗読録音後に声を出しながら娘に対する愛があふれてきたと語る母親の「言葉ってすごい。声ってすごい」、絵本を読みながら私もこんなふうに言ってもらいたかったと思わず言葉がこぼれた母親の「子どもの私にもどってしまっている自分にびっくりしました」……彼女たちの率直な感想に、ただ「読書で生きる力が身につく」という漠然とした言葉ではなく、より身体や生活に根ざした、物語への痛いほどの欲求を強く感じた。

 また、ある母親の心情的にどうしても読めないセリフに対し「代わってあげる」とメンバーが一人ずつ読むと、じっと耳を傾けていた彼女は「ありがとう。でも、わかりました」と、そのセリフに対する自分の解釈、自分の母親としての覚悟を語った。あるいは「自分は悪いことをしているから、子どもを抱きしめることはできない」と話す母親に「絵本の中ならぎゅっとできる」と語りかけると、彼女はこのシーンをなんとか自分のものにしようと、ゆっくり読むようになった……。

 互いに絵本を読みあうことで、人が本を通じて自分や社会と向き合う真摯さ、その瞬間を共有できることの素晴らしさも存分に語られている。読書、本というものの持つ力を心から実感することができる一冊ではないだろうか。(こそがわ・まき=認定司書)

★むらなか・りえ
=児童文学作家。ノートルダム清心女子大学児童学科教授・読書療法。著書に『チャーシューの月』(日本児童文学者協会賞受賞)『たなばたのねがいごと』『いつか、太陽の船』『こくん』『あららのはたけ』(坪田譲治文学賞)など。一九五八年生。

★なかじま・まなぶ=美祢社会復帰促進センター元センター長・法務省札幌矯正管区長。矯正施設から、家族等への帰住が困難な方々への、社会的な支援体制の構築等にも関わる。