書店本事 台湾書店主43 のストーリー
著 者:郭怡青 文 欣蒂小姐 絵 小島あつ子,黒木夏兒 訳
出版社:サウザンブックス社
ISBN13:978-4-909125-12-5

書店本事 台湾書店主43のストーリー

図書館員のおすすめ本(日本図書館協会)

吉澤麻衣子 / 栃木県立図書館
週刊読書人2021年11月5日号(3414号)


 台湾の書店というと,日本橋にオープンした「誠品書店」という大型書店チェーンが近年注目を浴びている。しかし,本書で取り上げているのは「独立書店」と呼ばれる個性あふれる個人経営の町の本屋である。

 店主へのインタビューを元に,古書や貴重書を取り扱う老舗から文化活動や人々の交流の場を提供する新進気鋭の店まで,それぞれの書店が持つ物語や店主の思いを交えて紹介している。

 面白いのはどの書店も店主のこだわりや価値観が反映されており,一つとして同じものがないことである。本を収集する際に出会った野良動物たちの一時保護をしている店や,田園に囲まれた場所で本と野菜の物々交換をしながら書店と農業を営む店など,さまざまなコンセプトやアイデアがある。

 台湾でも日本と同じく,インターネットの普及による読書離れや出版不況が続いており,個人経営の独立書店が生き残るのは容易ではない。しかしさまざまな困難を乗り越えて店を経営し続ける店主たちの声からは,本への愛情はもちろん,文化を広め知識をつないでいきたい,地元や社会に貢献したいという強い思いが感じられる。

 ある書店では,大型書店では取り扱いが少ない詩集や脚本,LGBTQや少数民族等に関する書籍を扱っている。そこには,自身も客家人というマイノリティーである店主の「社会的弱者に発言するための舞台を提供する」という思いがある。

 また,書店情報のページには,本書と並行して制作された気鋭の台湾映画監督ホウ・チーランによるショートドキュメンタリー集『書店の詩』(原題:書店裡的影像詩)へのリンクも掲載されており,紹介されている書店を映像で見ることができる。実際に台湾へ足を運ぶ代わりに,本書と映像で台湾の書店巡りをしてみてはいかがだろうか。