マイパブリックとグランドレベル 今日からはじめるまちづくり
著 者:田中元子
出版社:晶文社
ISBN13:978-4-7949-6982-8

マイパブリックとグランドレベル 今日からはじめるまちづくり

図書館員のおすすめ本(日本図書館協会)

小廣早苗 / 佐倉市立佐倉図書館
週刊読書人2021年11月19日号(3416号)


 「マイパブリック」は著者の造語であり「自分で作る公共」と定義されている。では「マイパブリック」をどう作るのか。まず著者は「公共」とは「与えられるもの」「みんなのもの」ではなく,自分自身が「公共」であり,「公共」は自分でつくれるということを,さまざまな実践や経験による裏付けから本書で提言する。

 例えば「趣味」を「自分をしあわせだ,楽しい,と感じさせるためにする,無為の能動的な行い」(p.55)と定義づけた上で,心理学者アドラーの幸福3原則を絡めて持論を展開していく。かつ「パブリック」は地上(グランドレベル,地面)で実現してこそ,という論点は,それこそ地に足のついた生活に根差したものであり,だからこそ感覚的にも自然に納得し共感できる。

 「パブリック」とは,公共空間でも公共施設でもなく「公共的である状況」という明文は,胸にストンと落ちてきた。曰く,第三者との接触可能性(共有性),第三者にとっての「自分の居場所」(実践性),第三者同士が互いの存在を許容し合えること(関係性),この条件を満たす状況が「パブリック」であり,「まち」や「社会」が,グランドレベル(地面)やアイレベル(地面に立って,人の視界に自然に入ってくる風景)で「パブリック」な状態になってこそ人は幸せになる。幸せな人がいる風景が見える化されることで,よい「まち」よい「社会」が見えてくる,というのも当然,と納得である。

 そのために必要なのが「マイパブリック」で,各個人が「パブリック」を作り,自分が「パブリック」になることが勧められている。著者のような魅力的な存在とまではなれなくても,各個人が幸せを感じる「パブリック」を作ることが,「まち」をつくることにつながるのだと,本書で改めて確信することができた。