平成16(2004)年
2月11日 吉野家が牛丼販売休止へ。
BSE問題で米国産牛肉の輸入が禁止されたため。牛丼から豚丼へ。
山小屋ガールの癒されない日々
著 者:吉玉サキ
出版社:平凡社
ISBN13:9784582838077
山小屋ガールの癒されない日々
図書館員のおすすめ本(日本図書館協会)
週刊読書人2021年12月3日号(3418号)
人生を変えたできごとは何か? この問いに,あなたの頭の中にはどんな答えが浮かぶだろうか。私にとってそれは山との出会い。インドア派だった私が山の魅力にはまり,ときには山小屋を利用しつつ山歩きをするようになった。そんな私が書名に惹かれて手に取ったのが本書である。
この本は,山小屋スタッフとして10年間働いた著者が山小屋での日常を綴ったものである。吉玉氏は山小屋について「私の常識をはるかに超えた世界」(p.4)だと語っている。電気は自家発電でまかない,水は雨水や沢水を使用,宿泊施設なのに風呂もなく,満室であっても宿泊者を断らない。近くには病院もスーパーもない大自然のなかで,登山者を受け入れる山小屋の業務内容は多岐にわたり,宿泊関連業務から食料品等の荷揚げ,登山道の修繕,ときには自力で動けなくなった登山者の救助までも含まれるという。登山者にとっても山登りの重要な拠点となるのが山小屋なのだ。
著者はかつて心の調子をくずし,就職した会社を立て続けに辞めニートになった自分に自信を失くしてしまったという。あるきっかけで山小屋で働くことになり,そこで出会った年齢も経歴もさまざまな山小屋スタッフたちとの関わり合いを通して,自分を社会不適合者だとする自己否定から脱却できたことも綴っている。山小屋が人生を変えてくれたのだと言う。元々の夢であったライターへの道を歩き始めたのも,山小屋特有の濃密な人間関係を経てこその気づきがあり,人生を見つめ直すきっかけとなったからなのだろう。
山好きには山小屋の裏側について知ることができる楽しい本であるが,そうでない人でも手に取ってみてほしい。著者の山小屋ガールとしての人生への向き合い方は,何がきっかけで変わるのかわからない,人生の不思議さやおもしろさを伝えてくれている。