光の田園物語 環境農家への道
著 者:今森光彦
出版社:クレヴィス
ISBN13:978-4-909532-30-5

光の田園物語 環境農家への道

図書館員のおすすめ本(日本図書館協会)

廣澤貴理子 / 徳島市立図書館
週刊読書人2021年12月3日号(3418号)


 四季折々の里山。その風景の中で人と生きものの豊かな営みに深いまなざしを注ぎ続けている写真家,切り絵作家,今森光彦氏の著書を紹介したい。

 琵琶湖と比叡山に挟まれた丘陵地一帯を流れる1本の谷に沿った,美しい棚田。著者はこのフィールドを「光の田園」と名付け,アトリエ“オーレリアンの庭”を構えた。本書は新たな挑戦の記録である。45年間放置されていた荒れ地を開墾し,生きものが集う農地を取り戻そうと悪戦苦闘の日々を文章,写真,切り絵,海外の銅版画モチーフで美しいハーモニーを醸しだし,編まれている。

 著者は荒れ地を手に入れたとき,新しい言葉が浮かんだという。“環境農家”。作物を収穫するだけでなく,生きもののすみかとしても考え,人々が数多くの生命と触れ合える場所を目指す。

 著者の自然観は子どもの頃の体験が根底にある。誰にも教わらず,自分で発見し体験したことを著者は“感性の栄養”と呼ぶ。培う土地は,ここ30~40年間で激減した。「絶滅しているのは,生きものではなく環境の方だったのだ。」(p.77)

 地域の人々の協力を得て奮闘していると,神様からのプレゼントがぽつりぽつりと現れた。柿の古木,樹齢150年のヤマザクラ,山の神々の姿。息をひそめていた姿に再び,光が差し込み,蘇る。未来へ贈る新しい物語の扉が開かれたかのよう。

 開墾した里山で「いきもの観察会」が開催され,筆者も参加した。子どもたちは思い思いに生きものを探す。「この虫,なんていう名前?」子どもの質問に優しく答える著者。その様子を眺めながら,自分の呼吸が深くなったことを実感した。土の匂いに身体が共鳴したような不思議な感覚だった。

 日本の原風景,里山を守り,自然,生きものを愛する全ての人へ届けたい1冊である。