ほろ酔い黒百合 北八ヶ岳・山小屋主人のモノローグ
著 者:米川正利 著
出版社:山と渓谷社
ISBN13:9784635330435

ほろ酔い黒百合 北八ヶ岳・山小屋主人のモノローグ

図書館員のおすすめ本(日本図書館協会)

宮崎祐美子 / 所沢市立所沢図書館富岡分館
週刊読書人2022年2月11日号(3427号)


 「黒百合ヒュッテ」は北八ヶ岳に位置する山小屋である。著者米川は母が開いた黒百合ヒュッテの二代目として小屋を守ってきた。1956年開設当初は,現在のようにヘリコプターでの荷揚げも,エコトイレもなく,大変な苦労があったことがうかがえる。このエッセイ集は,先代から紡いできた半世紀以上の八ヶ岳と小屋の歴史の記録である。

 エピソードは16ある。そのひとつ「犬」で登場する愛犬コロの存在は大きい。孤独な小屋番を癒し,時には登山者の命も救った。私が数年前この小屋の前で出会った年配の登山者は,過去に雪山で遭難しかけたときにコロに救われたと語ってくださった。「コロはすでに亡くなっているが,会いに来たんだ」と懐かしそうに話された柔和な表情が今でも強く印象に残っている。本の巻頭には,著者一家やコロの写真が収録されている。

 また「山岳ガイド」では,今は亡き世界的登山家の長谷川恒男氏,「遭難」では,レスキューに命をかけた東邦航空の篠原秋彦氏との交流を綴っている。素晴らしい自然に囲まれている場所だけに災害や遭難の危険とは隣り合わせ。小屋番は常に緊張感を持ち山の世界の厳しさと向き合わなければならない。登山道の整備,登山者の保護,山の管理など地道な作業にはただただ頭が下がる。

 著者は,プロの山岳ガイドの組織を作るために奔走するなど八ヶ岳のため尽力してきた。過酷な環境で培った柔軟さが幅広い活動につながっており,高所医学研究者の顔も持つ。著者のコミュニケーション力と発想力,魅力的な人間力は困難な世の中で生きていくためのヒントとなるだろう。新型コロナウイルス感染症拡大の中,小屋では感染防止の対応に苦慮していると思うが,収束後に真っ先に訪ねてみたい。現在の黒百合ヒュッテについてはhttp://www.kuroyurihyutte.com/に詳細あり。